冒険家ド・リメジー男爵に愛をこめて
夏の終わりというものは、時に暗闇と親しんでいたい時期。
ですから、私はあなたの失踪を、問いはしません。
失踪は、私の得意でもあるので、人が、それを行うことを問いただすほど、私は未熟ではないつもりよ。
晴れた休日の昼間、幼い子供の泣き叫ぶ声と、僧侶の良く響く祈りの声、そして、どこかで杭を打つ音が鳴り響いていた。
私はそれらの音を聴いて、あなたのことを想った・・・。
それは少しも残酷ではなく、ひとつの家が建つための、幸せの響きだった。
あなたは今頃、夕刻のカフェにいるかもしれないし、草の上で歌っているかもしれない。
「火をかしてくれないか?」、と、人なつこい笑顔で誰かに語りかけているかもしれない。
あなたと出会ったのは、秋の朝のことだったような気がするのだけれど・・・その時の私は、あなたのただの通りすがりに過ぎなかったかもしれないわね、でも、あなたは私を気に入った。
その気紛れな友情は、分散されながら日々を重ね、今に至り、不思議な輪郭が現れ、それで、少し戯け、道化すぎたためにしばし沈黙し、一旦、取り澄ましてみる必要もあるわ。
私が「美しい景色」と、漠然と放ったら、あなたは言った。
「君には、あの景色の向こう側にある暗黒が見えないのかい?」、と。
私には、それが視えているのよ。
視えているからこそ、あなたに、そのような美談を突きつけたくなる。
世界を信じるなかれ、暗黒こそ、世の常・・・。
理想と現実は、いつも手を繋ごうとしては、押しとどまってしまうわ。
ベッドの中の夢は、現実になるにもかかわらず、たったひとつの嘲笑で、姿を変える。
終わりなき悪夢に翻弄されている幻想も、然り。
賢ければ、賢いほど、恐怖を敏感に察知し、狙われる。
狙われれば、奪われることもあるわ。
見出し、失い・・・でも、それは、結局、逃避で事を楽に済ますことができる。
その遣り方、私も何度もくり返してきた。
破れかぶれになるのは、とても簡単なこと、そこにすがって、振り出しに戻る。
いつも、何もかも、無くすようなふてくされた態度で、寂しい微笑みひとつ、そして皆に手を振って、次の旅に出る。
どうやら似た者同士なのね、あなたと私は。
秘密裏の世界があって・・・一見、とても友愛に溢れているのに、そのくせ、密室的な孤独に怯え、戯れ、幾つもの人格を持つ。
臨機応変に顔を変え、そのおかげで、一体、自分がどんな顔をしているのか、解らなくなることもあるわ・・・・・・そのつど、ヴァセリンを塗って、補強して。
あなたは、きっと、私を一瞬、無垢な女と感じたでしょう。
しかし、私の中に在るその無垢は、残酷です。
純真というものには、野蛮という顔が潜んでいて、その野蛮を如何にも可愛らしく見せてしまう馬鹿な女にとっては、境界など、関係ないらしいけれど・・・
が、言っておきますが、私は純真ではありません。
あなたの知るように・・・
つまり・・・
あなたが冒険家であるごとく、私は探究者なのです。
探究者とは、何かを始めるとき、絶対的に、<白>である必要があるのです。
嘘をついても、<白>であるべきで、そのために、余計なことはしません。ですが、演技なら、します。
黄金は、不純物からも、創られる可能性がある・・・
そのように、想像してみてください。
計画は、いつでも持ち上がり、人生とは、その思わぬ偶然によって、導かれます。
そう、私の掌は、二本に分かれた運命線があるわ、ひとつは幸福への道、もうひとつは奈落への道。
私は、自分の快楽と生活と自由を守るために、生きているだけの者。
そういう者は、敵をつくります、いいえ、無意識に敵を招いてしまう、あなたも同様ではないかしら。
それでいて、招いても、私は風通しをよくしていたい質。
私が単純に綴った臨時急行のようなお伽噺だったはずのものが、後に予期せぬ事情で突然、現実のような顔をして現れたことに、興味深さを感じます。
それは、いつものあなたが、まるで墓場に埋葬されるような顔でそこに佇んでいるように見えたからであり、その事情が引き起こしたものは、黄金を装った不純物なのでしょう。
とはいえ、それは、ひととおり、美しい。
美しいがゆえに、信じ難く、行動を止めるわ。
それでも、こんな言葉を言われて、喜ばない者がいるかしら?
・・・君のために働くことは、僕の喜びだ。
たとえ、それが、詐欺師の冒険家の科白だったとしても・・・です。
よって私は、ますます女盗賊として小舟に乗り、輝く宝石を我が手にするために、幾つもの夜を過ごしていけるというものです。
駱駝はあなたのために、曲げた足を伸ばし、遠くアレキサンダーが歩いた地を行くでしょう。
私はパゴダで待ちます。
愛と抱擁をあなたに・・・
ド・リメジー氏へ
星屑のオーレリーより
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近頃の凡庸だった私の脳への、ブローニング、一発。
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Risaからのお知らせです。
9月10日、下北沢leteにて、ライヴをさせていただくこととあいなりました。
出演 桜井芳樹(g)&桜井李早(vo)
会場 20:00
開演 20:30
前売 2500 yen
当日 2800 yen
お問い合わせ、ご予約は、lete まで、よろしくお願いいたします。
『YES』桜井李早:著/MARU書房
著書『YES』の通販のお知らせです。
お値段は1500円+送料手数料200円です。
御注文は、お名前、発送先、部数をお書き添えのうえこちらまで。
御注文くださった方のプライバシーは、当然、厳守させていただきます。
..* Risa *¨