"The woman who fell to earth"

 何だかこの歳になって、漸く自分の本性が解り始めてきたような気がする。
 別に気づいていなかったわけではないが、そして隠そうともしてはいなかったが、それは私の持つ幾つかの顔の中で最も沈んだ部分に潜伏していることで面だって普段表面に現れないこと、というだけのことなのだが・・・が、しかし、そこが一番肝腎な部屋だったのかもしれない。

 その部屋を開くと、かつてママンが或る日私に言ったように、
「あなたは、荒んでいる」
 ということに成りかねないので躊躇してきたが、そのママンの否定する部屋こそ、私の限りなくシンプルな世界だ。

 シンプルというのは、素朴ということだが、それは社会的な素朴、人間的なシンプルとは違う。
 私の言わば、"naked"が蠢く、リラックスの扉の向こう側だ。

 10代から知っていたのよ・・・いいえ、もっと前からかもしれない。
 そういう、一種の煙の立ちこめるような部分が心臓の中のひとつの部屋として・・・そう、分つという意味では、弁として存在していて、その場所がクリックされ肉体の裡に、または神経の先端をさらう時、その時・・・

 私は自由を感じる。
 これは、例えば"非人情"にも似ていて、時に暗い。
 暗いが、苦しさはない。
 むしろ、解放だろう。
 な・・・そうだろう?
 ニヒルとも言ってやりたいが、これではあまりに気障である。


 私の優しい微笑みの向こう側には、いつも、その「荒んだ」世界がある。

 ・・・「荒んだ」・・・?

 no!

 ママン、あなたは私を愛してくれているから、そう感じたりしたのよね。
 そうして、それを否定することで私に光の当たる世界を導こうとしていた。
 でもね・・・

 私が陥る"非人情"は、それはそれは美しいの・・・無垢で・・・いつも自然に寄り添っているのよ・・・

 人間の社会を超えた世界・・・
 いいえ、違うわ・・・
 人間が自然の中に溶け込む世界・・・
 植物にも、動物にも、魂があって、それを取り囲む宇宙があって・・・
 何もかもが因果の如く繋がり伝わり・・・
 ここで私が不機嫌になれば、目の前のコンピューターの調子も崩れたり、弱くなった植物の隣に元気な植物を置いてあげると弱った方も健やかになったり・・・
 そんな不思議な現象が起こり、やがて全ては大地、或いは、宇宙に帰還していくの・・・


 少し、人間から遠ざかっているかしら?
 そうね、人間から遠ざかるくらいの意識にならないと、本当の人間の姿なんて、視えてこないのよ。


 just i'm "The woman who fell to earth".
 give me a glass of water or wine.
 
 
 ・・・私は母乳を飲まない赤ちゃんで、食の細い子供だった。
 それは、"何故、人は欲するのか"、ということを知らなかったからかもしれないわ。
 少女の頃、愚かな私は、競争の世界を無視し、無垢な私は自分だけの部屋に安寧を求めた。
 一番になる魅力が解らなかった。
 先に立つ理由もなかった。
 人生は、ただ私の裡にあり、それを育てていくだけで耕されると信じていた。
 でも、その理想では、丈夫な作物にはなれないのかもしれない。
 

 ママン、あなたから産まれたRisaは、もう少し勇敢になれるはず。

 
 私は書きつづけます。
 私は歌います。
 私は渇いています。

 このとても辛い渇きは、あなたの母乳を飲めなかった頃の私の餓えに、恐らく、似ているでしょう。
 

 パッパによろしく。


 LOVE...



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