モーツァルト的な・・・そして、

 今年の梅雨は、微笑みの日の少ない梅雨だな。梅雨なのだから、雨が多いのは当たり前だけれど、もう少し、緩んだ顔、してくれないかしら、空よ・・・。

 それでも、この空の下のどこかで、一日中啼いている鳥の声が安らぎである。
 我が家の界隈は、春になれば毎年ウグイスが啼き、「今年のウグイスは歌が上手」とか、「あら、まだ親鳥にレッスンを受けている」とか、「とうとう啼き方をおぼえられなかったみたい・・・」と、何かとその声が身近なのだが、今年はそのウグイスだけでなく、数種の鳥の鳴き声があちこちから聴こえる。
 中でも最近、最もよく啼いている鳥は、何という鳥なのか、姿も見えないので解らないのだが、すこぶる美声で、コロラトゥーラとも言える高音で見事に歌いつづける。
 コロラトゥーラ(レッジェーロとも言う・"コロ"と略して呼んでいたが)とは、ご存知の方もいらっしゃるかもしれないが、ソプラノ域の最も高い音域で、細かいパッセージを歌う者のことを言う。代表的な楽曲を言うならば、モーツァルトのオペラ『魔笛』の中の「夜の女王」のアリアがあげられるが、この声は訓練で出せるというよりもむしろ、特徴と考えたい。ちなみに私は学生時代、ソプラノであったが(地声からあまり想像できないかもしれないが)、私の声は、ドラマティック・ソプラノ(ドラマティコ)であり、モーツァルトよりもどちらかというと、プッチーニやドナウディなど叙情的なアリアや歌曲が向いていたようである。この他にリリック・ソプラノ(リリコ)という明るく朗らかな魅力の声の種類もある。だが、"コロ"のような細かいパッセージもドラマティックもリリックも、同様に呼吸が保たれないことには、声として奏でられはしない。

 お話はその鳥の歌声に戻るが、これが何とも三連符が上手なのだ。三連符の持ち味にも色々あるが、まさにモーツァルト的な三連符を奏でるのである。
 モーツァルトを聴いたことがあったり、または、演奏した経験のある方ならご理解いただけるだろう。あの作曲家の三連符は、独特なのである。私はピアノでも随分モーツァルトソナタを弾いたが、あの鳥の啼き方で、モーツァルトが書いた譜面の三連のイメージは、鳥の鳴き声だったのではないかとさえ感じた。・・・確かにね、あのモンティ・パイソンのコントではないけれど、モーツァルトの生きた時代にはネズミも多かったかもしれないけれど、恐らく、彼の生活の窓からは、いつも鳥たちの歌声が響いていたことでしょう。で、子供だった私がモーツァルトを弾く時、どうして先生はレッスンでそういうこと、言ってくれなかったのかしら? そんなお話をしてくださったら、きっと私、モーツァルトをもっと楽しく弾くことができたでしょうに・・・。
 そう、私は10代の或る時期から"K=ケッヘル / ケッヒェル(モーツァルトの作品の番号)"が、あまり好きでなくなった。弾きづらいというか、悩まされるというか、飛び跳ねて、あっちへこっちへと動き回る音符の連鎖がクドくて落ち着かず、厭になったこともあった。
 そこへいくと、ベートーヴェンは、いい・・・暗澹としていて、それでいて、ロマンティック・・・この作曲家のことを、あの音楽室の肖像画を見て、激情の人だとか、苦悩の人と感じた方は多いかもしれないが、非常に美しい心で希望と絶え間なく交信した人である。子供のままに過ぎる人生を生きたモーツァルト(近頃、そのような人生を生きたスーパー・スターが悲しい死を遂げたが)とは異なり、大人の夢と理想・・・闇のロマンを描きながらもシンフォニックを不動のものとして格調高いものに仕上げたベートーヴェンの功績は大樹のようなものである。そして、両者、同じ三連を描いても、弾く時にはそのタッチに違いを求められる。初期から後期にかけてベートーヴェンの筆も変化するのだが、例え比較的若い頃の作品『悲愴』の終楽章でさえ、モーツァルトとは、別の効果である。・・・私は音楽大学受験の際のピアノの試験の楽曲に、ベートーヴェンソナタを先生が選んでくれたことに感謝した。

 どうも、ベートーヴェン贔屓なことをここへきて並べているが、要するに、私は今年、あの見事な鳥の調べを聴きながら、モーツァルトの魅力はこのようなものからの影響があるのだな、と、感じ入ったのである。

 モーツァルトは自然児だったのかもしれない。
 マイケルも、もしや、そんな人間だったのではないだろうか、本質は。
 楽しいことに胸を踊らせ、歌いつづけたかった、自分の庭、世界で・・・。

 だが、ベートーヴェンは音楽家になるために生きようとした。
 彼はだから、大人になる必要があったし、恋をしつづけ、悩んだ。
 楽しいだけではなく、野心もあっただろう。

 そういう、違いである。
 そして、その違いが、人の人生の終わり方をも、左右するのかもしれない。


 ・・・で・・・あの鳥は、フリーメイソンかもしれないわね、うふっ!


   *


 またまたお話かわって・・・

 さて、7月に入りました。
 この月、私は『裸言』http://lagon.jp/というサイトに連載を書かせていただいております。
 こちらは、月曜から金曜の午前0時に、その日のパーソナリティーが記事をアップするという、まるでラジオ番組のような仕掛けのサイトです。
 もう、7月1日、水曜日の午前0時も過ぎました。私の綴った"Fairy Tale"がアップされている時刻です。
 よろしかったら、お楽しみくださいませ。

 そして、秋口には、ライヴをやらせていただくかもしれません。
 スケジュールは、もうしばらく、お待ちください、よろしくお願いいたしますね。

 
   **


 で、以下は、その"Fairy Tale"に寄せてのオマケちゃんです・・・allowing me・・・and let me smile・・・


 
 Sly & the Family Stone / "If You Want Me To Stay"


   ***


 Photobucket
 『YES』桜井李早:著/MARU書房

 著書『YES』の通販のお知らせです。
 お値段は1500円+送料手数料200円です。
 御注文は、お名前、発送先、部数をお書き添えのうえこちらまで。

 御注文くださった方のプライバシーは、当然、厳守させていただきます。



 ..* Risa *¨