ドラゴンを飼う
私の二つの胸は、とても小さい。
そこで、私はその両の胸に、二匹の蛇を飼おうと思った。
二匹の姿は黒くもあり、白くもなり、蒼く、赤く、そうして黄金にも変化するわ。
稚魚ほどの大きさのそれぞれの蛇は、この先、毎日育つだろう、私の二つの胸の裡側で。
それがどうにも大きくなり過ぎ、重くなったと感じたら、私は二匹を躯から引きずり出す、えぐり出す。
私は二匹を二つの網の中にそれぞれ入れ、太陽の陽に晒し、三日、浄化する。
すると、二匹はまた稚魚ほどの大きさに戻るはず。
彼らが目を閉じ、静かな眠りに落ちた頃を見計らい、私はそれらを再び二つの胸にそれぞれ納め込む。
懐に入れてやるのと、同じである。
茶道で見る、あの白いこわばった懐紙と同様、彼らは、私の口元の、手元の、汚れを、拭うわ。
拭った汚れで、彼らは成長し、生きるというわけ。
彼らが懐で蠢き、自由を求めていると感じたら、私は、「出ていらっしゃい」と、空に書く。
彼らは自由になり、私から、「出る」。
彼らが私の外で暴れ出したら、私は、「入りなさい」と、空に書く。
蛇たちは叱られるのを恐れる子供のように、もじもじしながら、私に、「入る」。
また或る時、私が彼らを放っておいた隙に、彼らが逃げ出し、私がその不在を寂しく感じれば、「戻ってらっしゃい」と、空に書くわ。
彼らは風の中を泳ぐようにして、どこからともなく私のもとに現れ、迷い子のような顔をして、私に、「入る」だろう。
私の両胸に飛び込んだり、抜け出したりする二匹の蛇たちは、いつか、ドラゴンになるかも知れない、建仁寺の天井に描かれた二匹の龍のように。
彼らは、まず、水の化身(蛇も、そもそも水の化身よ)の正体を表し、湖の中に飛び込むわ・・・その後、竜巻のごとく水上から浮き上がり、混乱し、グルグルと乱舞しながら空を目指す。
雲を縫うように踊り彷徨い、その牙を見せはしても、雷神と共に遊び、雨を呼び、地上を潤わせるだろう。
それに飽いたら、彼らは空を引き裂く。
引き裂かれた空の雲が二分され、青空が現れる。
そこで、ひとまず、二匹のドラゴンの役割は終わり、彼ら、しばしの休息をとる。
が、その四つの目が開いた時・・・
私の二つの小さな胸に宿る蛇たちが、本物の、麒麟となり、空を駆ける時が来ても、いいいじゃない・・・。
でも、彼らは、ただの私の小さな、神・・・折り紙で作った神さまかもしれなくてね・・・。
ドラゴン、それは、女よりも、むしろ、男が飼うべきものかもしれなくてね・・・。
・・・弱いと同時に強く、空気の重みでも疲れてしまうのに、天をも担ぐことができる女。共同生活のほどけた糸をつかもうとする時には、繊細で巧みで洞察力を持つのに、自分の幸福に真に役立つものを見分けようとする時には、間抜けで馬鹿になる女。全世界を馬鹿にしながら、たった一人の男にまんまと騙されてしまう女。自尊心は持たず、自分の選んだものに対する尊敬の念で満たされ、自分のためには、俗世間の虚栄を無視しながら、その虚栄全てを備えた男に誘惑されてしまう女・・・
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