i just wanted to hear your voice…in 1976…and 9th Oct 2013



 "The Beatles Tapes/from the David Wiggs INTERVIEWS"…あの頃、彼らの歌声はすでに毎日のように聞いていた私だが、彼らの話す声をゆっくり聞く事が出来なかった当時、このレコードは1976年に限定発売と称された2枚組、少女の私には些か高い買い物だったが、買った。
 それは今のようにYouTubeで様々な記録を見る事が出来なかった時代であり、勿論、DVDどころかヴィデオ・デッキの登場さえ待たなければならなかった頃、私たちはTVでビートルズの映画を見る機会や日本公演の映像を時に得たが、それはその日限りで後の機会を再び、待たなければならなかった。
 その時代、私など、TVの前にカセット・テープレコーダーを置いてヴォリュームを最大限に設置し、映像が録れないなら音声だけでも、と録音したカセット・テープが何本もある。
 そのようにして録音した"A Hard Day's Night"、"Help"や"Let It Be"(かまやつ氏の解説が印象に残っている…)等の映画から聞こえるジョン、ポール、ジョージ、リンゴの声を聞くだけでも愉しかったが、そんな矢先、それはビートルズ来日10周年という年でもあったせいか、同年6月の"Rock'n' Roll Music"、そしてその後にこのインタヴュー・アルバムが発売された。その年は、確かビートルズのレコードを買うと、レコード・ショップが"Rock'n' Roll Music"のジャケットの袋に入れてくれるというサーヴィスがあり、私はそれらのレコード袋を大切に保管していた。ジメジメした梅雨の1976年をそのように過ごしていた少女-Risaであった。


 さて、このインタビュー・アルバムを購入して帰宅し、家の家具調ステレオに針を落とし、聞いてみること…「ポー…」…。もう、話し声を聞いているだけでよかった。しかも、ヘッドフォンで聞くのである。声はより耳に寄り添い、私はそこにジョンがいると想像する。
 同時に私は恥ずかしくなる。大好きな男性の声を間近に聞いてうっとりしている私という少女を恥じるのである。
 母になど、そんな姿を見られたくはないのだ。だからヘッドフォンを使っているという事もあったわけだが、何しろ、それは、人が話すという当然の行いが何か別世界にあるような心地になるのである。英語だからという問題だけではない。話す声とは、人の感情を表し、音楽が見せる/魅せる一種の表現とは異なるまっさらな表現なのである。
 それは会話ではあるが、インタビューという形式をとる以上、個人的なものではなく、誰かに必ず届けられることを意識して話しながらも、人間であるゆえ、本音という裸な姿が見え隠れする。
 そしてその声の中には<間>、<高揚>、<呼吸>も聞こえる。
 …こんなレコードを買ってしまうなんて…と思いながらも、私が感じたのは、恋しい人の話し声を聞く事とは、何て素敵なことなの!? …という正論であった。


 私はその時、その前の年の暮れに、私のクラスメートのマセた少女が私にこんなことを言った事を思い出したものだった。 
「12月31日の夜が1月1日の午前0時になった瞬間、私は彼に電話をするの。そして彼に言うの。『あけましておめでとう! 私、どうしても今年最初に、あなたの声が聞きたかったの!』どう? 素敵だと思わない?」
 彼女のその言葉に、私は案外涼しく笑ってみせたが、彼女は本気であり、それをした。
 彼女が彼の心をグッとつかんだかどうかは、知れないが、私はこのビートルズのインタビュー・アルバムを聞きながら、彼女の言葉を思い出し、「それ、ありだな」とニヤリ…否、私は彼女のような突進型ではない。が、オキャンであることは認めるだけのことである。


 恋しい声を聞く事、それは生きる力を高め、しあわせを運ぶわ。




 追記になるが、このインタヴュー・アルバムは、インタビューの合間にビートルズの曲がインストゥルメンタルで登場するのだが、あの当時の私にはそれらがどうも気に入らなかった。
 しかし、先日、改めてジョンの声を聞きながらそこに登場した'ARP Odyssey Synthseiser'による"Come Together"の音の力にちょっと驚いた始末である。


 <思い出のビートルズ>という副題がレコードの帯に書かれているが、これらのインタビューが行われたのは1960年代後半から1970年代初頭のことで、1976年当時を、遠い<思い出>とする今日にあって、当時、そのほんの数年前の事に<思い出>という言葉を使うのはどうかと思ったが、この<思い出>という言葉は、彼らビートルズの4人にとっての"当時"の<
思い出話>に相当するのであって、私たちの<思い出>ではないということなのだ。












 
 Risa :***