最後まで目を通していただけることを望んで…*



 Crestにて、それは南のフランスが急に暑くなり出した頃のこと。この小さなギャラリーを覗いたのは7月11日。日本に影響された作家の方の作品たち。大きくはないこの街には確率的にいえば薬局に勝ってギャラリーがあり、気軽にふらっと立ち寄れる。日本もこのようであればいいのに、と思った。
 フランスという国はアーティストを育てる。その作家がフランスで死ねば、例えそれがフランス在住の余所の国から来た人であっても、そして有名無名を問わず、そのアーティストの残した作品はフランスの所有となりえるとも言われている。
 日本はどうだろう?
 日本という国は、外国の人たちから見たら素晴らしい伝統を持つ国と評価されていることは確かと信じているが、しかし、実際の日本政府は、芸術という方面についてさして支援しない。それは、日本が"個"を大事にしない方針をとる姿勢で進まざるをえないと言われても私には言い訳がたたない。
 歴史的に"村意識"が根強いのは致し方ないが、それでも、個人の自由という産まれた時から当然の現実が見損なわれてしまいがちな社会を形成し続けた結果、21世紀のこのような日本が今、在るのだろう。


 これは余談だが、私が今回パリから東京へ戻る飛行機の中で私の隣席だった人は、フランス人女性ジャーナリストだった。彼女と私はフライトの間、よく話した。彼女は日本がとても好きで、長年にわたり東京とフランスを往復しているのだという。しかし彼女は日本についてこのように言った…。
「日本はアーティストを大切にしませんね。フランスはもっとアーティストを大切にします。日本人はどこの会社に勤めているかとか、そういう事の方が大事なのですね。そして今の東京はあまり感心しません。昔の東京はもっと良かった…」
 そうしてそのフランス人ジャーナリストは日本の昨今のデモについて、このように言った。
「あれは私にはデモとは思えません」


 ……

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 窮屈だと感じるのはいつの世も、同じ。
 だから、何事とも、比べてはいけない。
 それでも比べたくなる瞬間があると、私が今、思う本音を言うなら、"差別意識"がそれでも世界の他の環境よりもずっと少ないこの日本なのである...。


 …ただ、打ち解けた気持ちになって、自分を表し、信じてみればいいこと。(私はそのような啓示的な夢を何度かみたような記憶があるわ) 


 …人が考えないようなことをすればいい。(その意味では長嶋茂雄氏が現役時代、「誰もいないところに打てばいいだけのこと」と軽々とおっしゃっていたことは爽やかでいい。私は巨人ファンではないが…でも、上原浩治投手の今年のアメリカでのレッド・ソックスでの活躍は嬉しかった)


 …"解ってもらいたい"などと甘い願いは捨てること。

 
 …誰かと自分を分かち合うなどという消費社会じみた観念は捨てること。だって、そういうことを守りのようにしてきてしまった日本の社会が、妙な競争意識や間違ったデモクラシーを(幻想としてのデモクラシーを)作り上げてしまったといってもいいわ。悲しい事をいいますとね、"分かち合う"とは、必ずしも幸せとは限らない現実、つまり"束縛"を招く意識でもあるのですから。


 私は虚無や独りよがりの者ではない。
 うぬぼれてもいない。
 それは私という者を、実際に知ってくれている友人、知人の人たちならば、ご存知と考える。


 実はもっともっとここに書いたのだ、私は。
 だが、今、或る部分を大量に削除した。
 私は今年、残り少ない今年をもう、怒ったり悲しんだりせずにいたい。


 他者と個の区別をつけられない者は、結果、隷属的な立場に自らを追いやることになる。
 そこでこのようなことを言ったフランスの社会主義者の言葉を思い出した今日…


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 "どんな時にも、何らかの熱狂を持ち合わせる。そうしない人には人生は耐え難い"


  by モーリス・バレス/Maurice Barres


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 しかし、このモーリス・バレスと同時代に生きたフランスの詩人/作家であるアナトール・フランスはこのようなことを言った。


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 "無知は、幸福の必要条件であるばかりでなく、人間存在そのものの必要条件である。もしも我々が一切を知ったら、我々は一時間と人生に堪えられないであろう。人生は楽しいとか、ともかくも我慢できるものだとか我々に思わせる諸感情は、何らかの嘘から生まれるものであり、幻想によって育まれている"


  by アナトール・フランス/Anatole France  


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  このアナトール・フランスの言葉には、この先が、もう少し、あるのだが。




 …いや、やはり、アナトール・フランス/Anatole Franceのこの先の言葉をここに引用させていただこう...。




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 "もしも、神のように、真理を、唯一の真理を、所有している人があって、その真理を手から取り落としたとしたら、世界はたちどころに滅び、宇宙はたちまち影のように消え失せるであろう。神のごとき真理は、最後の審判と同じように、宇宙を粉々に打ち砕くであろう"


 このアナトール・フランス/Anatole Franceの言葉は、1895年に書かれたものである。












 Risa :*)