画家Painter Kuro氏による「21世紀騎手とvoix du soir〜桜井李早との共有」のお知らせ



 


 今日、11月14日から始まります。画家Painter Kuro氏とのコラボ「21世紀騎手とvoix du soir〜桜井李早との共有」@詩穂音/日立市。その夜明け前にある今、私の著書『YES』からのひとつの詩作をご紹介させてください。




"前奏曲と映像"     




 何層にも重なり合う青い空はトリッキーだ。
 そこに浮かぶ白を、私は痛々しく描いた。


 小さな失意を感じた。


 夜、ドビュッシー
 今日のような晩は、言葉のない音楽がよい。
 流れ漂う旋律、だが、沈黙で私に触れていてくれる。
 前奏曲には、散りばめられた物語、
 思い出のような、旅のような。
 「……西風が見たもの」が大きくうねり出すと、秋の虫が庭先に近づいてきてピアノの音に負けまいと、より大きな音を出し始める。
 しかし、どう? 
 「亜麻色の髪の乙女」が静かに始まると、その虫の音は再び柔らかな音色に戻る。


 今宵の私は、「帆」。
 麻の白い夏服を着て、背筋を伸ばす、白い帆。
 風向き次第で、流れるように漂うように、
 「水の反映」に溶けそうになるけれど、
 揺れる波の上に立つ白い私という帆は、その骨組みを、
 十字架のように広げて、流れるように、漂うように。


 「さえぎられたセレナード」。
 忘れないでね。
 私の笑顔を……
 私の言葉を……


 私という帆に近づき、熱い風を吹かせ、
 私という帆の心を、台風のように荒らし、
 何くわぬ顔で去っていった道化師。
 あなたは、「パック」という妖精を、知っている?
 あなたは、「ミンストレル・ショー」を、知っているかしら?


 ええ、映像は続くわ。
 「水の反映」は煌めいていた。
 そこからニンフの手が伸びて、私は溺れそうになった。
 私は古えの旋律を唱えながら、
 救いを求め、岸辺に向かおうとした。


 私はじっと耳を澄ませた。
 その岸辺の向こうに見える緑の中から、聴こえる鐘の音を、
 それは幾つもの音を響かせながら、
 緑の中を駆け抜けていく。


 風は止み、私はしばらくそこに留まっていた。
 私の視線の先には、廃寺があることを知っているが、
 私はそこに辿り着くことはできない。


 「そして月は廃寺に沈む」。
 忘れないでね。
 私の笑顔を……
 私の言葉を……


 沈んでしまったわ、月が。
 寄せ返す波の音だけが私に聴こえて、
 光を失った私はもはや帆として流れ漂うことはできない。


 すると、どう?
 十字を象っていた私の骨組みは次第に緩やかになっていく。
 私の足は宙に浮き、ピョンと跳ねる。
 何故跳ねる?
 跳ねた私は暗い海に飛び込んだ。


 その時、私は自分の躯が、「金色の魚」に変化していることに気づいた。
 もう、流れ漂うのではない。
 私は自由に泳いでいける。
 海が暗く、水が煌めくことがなくても、
 月が廃寺に沈んでしまっても、
 私自身が、黄金色に煌めくことができる。


 もう一度、前奏曲に戻ろうか?
 「ねえ……ねえ?」と、囁きながら神殿の階段を上りつづける舞姫
 彼女は麻の白いローヴを纏っている。
 「デルフォイの神殿」では、月は見えるのだろうか?


 小さな失意。
 忘れないでね。
 私の笑顔を……
 私の言葉を……




  ~Risa Sakurai/桜井李早 著 『YES』より  




 今日から4週間、この展覧会が行われる"詩穂音"は美味しいシフォンケーキとアートを堪能できる素敵なお店です。
 http://www.ootaka-kaorudo.co.jp/cafe/index.html 


 尚、12月8日の日曜日(14:00~16:00)には、Kuro氏とRisaによる「対談〜レノンの魂を引き継いで〜饗宴」と題したトークショーも開催されます。

 
 どうぞ、よろしくお願いいたします。




 




 Risa :*)