浜田澄子展「Sakura × Sansui 1」銀座中和ギャラリーにて 



   


   




 ギャラリーに足を踏み入れ、小机の上の芳名帳に名前を書いていると、モーリス・ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」が聴こえ始めた。これは私の愛するラヴェルの楽曲のひとつである。そうしているうちに、ギャラリーの奥から浜田さんが現れる。私たちはお互い、ご挨拶を交わし、作品を眺めながら色々な事を語った。
 私は彼女の作品意に囲まれながら、何か、深い森の中へ入っていくような心持ちになった。一歩一歩、「亡き王女のためのパヴァーヌ」の足取りにまかせ…。というのも、この曲は、ずっと私に、王女がゆったりと、遠くつづく階段を、或は森の中を、或は静かな庭園の中を、彷徨うように歩んでゆくドラマを感じさせてきたからである。
 その森は、神秘的であり、どこか神聖な、或は古代を憶わせるような宗教的な世界である。
 例えば、それはこのような世界である…。


 …左側の壁に手を当ててみれば、そこには石の塀にしっとりとむした緑色の苔に触れることができる。
 そうやって、私は遊離した気持ちになり、次の景色を見ようとする。
 すると、そこには黄金の壁が佇み、だが、その壁は決して奢り高ぶる様子はなく、そこに呼び寄せられたように輝く柔和な光を反映している。
 だが、その向こうには、やはり緑の森の光景が再び私を待っている。私はその森で磨崖仏に遭遇するのではないかと想像したりする。木漏れ日の合間にふと注意をこらしてみれば、苔のむした石塀に刻まれた小さな神の姿が浮かび上がってくるのではないかと、想像するわ…。
 更に奥へと進む。私がそこに見たものは、満開に咲く桜の姿である。花びらは舞いながら微笑んでいる…あたかも、「ようこそ」と、言っているように。
 そうして、その桜の花びらたちは、無尽蔵ともいえるほどに、次から次へとはらはらと、淡い雪のように降り続けるのだが、その光景の中で、私は何か温もりある女神の懐に案内されたような気がするのである。

 
 浜田さんの作品には、自然に対する敬意、そして、それを慈しむ人間の心を感じる。
 私は、浜田さんの描くの中に従属されながら、しばし、夢見心地になった。
 やがて私は、確かに漂う絵の具の香りに、これが絵画の世界だったことに、気がつくのである。

 
 pic1: やはり絵を描かれる下村美佳さんによって撮影していただいた浜田さんと。
 pic2: 桜の作品の前にて、私の著書『YES』を手にしてくださった浜田さんと。


 浜田澄子さんの個展「Sakura × Sansui 1」は、3月29日まで、銀座中和ギャラリーにて開催されてらっしゃいます。




 Risa Sakurai / 桜井李早