Persephone / ペルセポネー



 お願いだから、あの赤い灯りを消してくれませんか。
 午前零時が過ぎようとしている今、私は失おうとしています。
 そんな私の目に、あの赤はもう必要ありません。


 お母様、私は確かにザクロの実を4つ食べました。
 それはこの世のものではありませんでした。
 今、私は冥府に在る者、もはやここに姿はありません。


 呼び戻すとあなたはおっしゃいました。
 しかし、私が口にした実の数が私の証となりましょう。
 4つ、どうかその数を憶えていてください。


 その罪滅ぼしに、私は季節というものを作りました。
 最初は春、それから夏と秋、最後に冬という名前をつけました。
 地上でそう信じられているのなら、私も役にたちました。


 愛しい猫が消えて、どれくらいが経つでしょう。
 午前1時を過ぎた或る5月の夜、彼は確かに鳴いたのです。
 でもその声に、私の返事は届かなかった。


 何故ならその5月、私は冥府にいたからです。
 彼の鳴き声はやがて、血の涙に変わりました。
 その涙はちょうど、5月に咲いた白い花々の上に落ちました。


 私は地面の下から腕を伸ばし、その花たちを持ち帰りました。
 私はその花にアネモネという名をつけました。
 するとどうでしょう、やがてその花たちは種を持ちました。


 種は、あたかも彼の睫毛に似ています。
 彼は私が見ている、と、彼はそよぎながら感じるのでしょう。
 風の強い日に、それはパッと飛び立ちます。


 彼は今、とても自由で、どこへでも飛んで行けます。
 彼の涙は多くの種を作り、それらは留まる必要はありません。
 でも私はたったひとつの種を握りしめています。


 地下に在っても、私は秋と冬にあの可愛い猫に会えます。
 悲しいことに、春と夏は、会えません。
 私が時に、春の女神と呼ばれているにもかかわらず。


 ですからどうか、あの赤い灯りを消してください。
 私が次に、この寒さから抜け出し、いつかそれを迎え入れるまで。
 午前2時を過ぎた春の空を飛び、私があの猫に再び会いにいくために。




 Risa Sakurai / 桜井李早©




  


 pic: "Persephone" ~by Linda Joyce Franks