『星空音楽會』にて 



 7月は、私にしては珍しく、ほぼ4~5日に1度の割合でライヴ、コンサート等に出かけていた。これらの事を書き残しておきたいと思いながらもしかし、帰宅すると消耗してしまい、また、個人的にも今、やり始めなければならない事もあり、綴れないままだったが、ひとつ、7月24日、栗コーダーカルテットでもお馴染みの関島岳郎氏が定期的に行っているイベント『星空音楽會』での事など、記しておこう。


 出演者はチューバ/リコーダーに関島岳郎氏、ギター演奏は桜井芳樹氏、コントラバス奏者は京都からお出でになった"ふちがみとふなと"の船戸博史氏。
 演奏者各々の選曲した楽曲を持ち寄りながらのトリオは、オリジナル曲、カヴァー曲を含め全て素晴らしかった。夢のように通り過ぎた時間であった。
 この日のプログラムに、バロック時代の作曲家であるカッチーニ(Giulio Caccini)の『アヴェ・マリア』も選ばれていたが、3人によって奏でられたこの楽曲は私にとって絶妙だった。 
 3人の方の演奏を聴きながら、今度、私も是非、この『アヴェ・マリア』を自分の立ち方で歌ってみたいと思った。


 ところでこのカッチーニの『アヴェ・マリア』について関島さんと話していて、実はこれはカッチーニ作ではないというお話。確かに、この『アヴェ・マリア』はバロック時代の音楽として考えると違和感がある。この楽曲はもっとモダンな旋律で成り立っていると言えばお解りいただけるだろうか。この曲は20世紀に露西亜の作曲家がカッチーニの名で作ったとも言われているが、人の心に響くのであれば、それが仮に匿名でも何らさしさわりないとすら思う私である。


 人は死しても、音楽が残り、それが伝え継がれ、その音魂は存在する。
 そういう意味では、この晩は、故-大原裕氏の作品も奏でられた。私には甘美でどこかせつなく、だが生命力と夢…というものを大原氏が抱き続けながら音楽に向かい合っていらしたと察する私だから、なのだが…を感じた。氏の作品が氏の死後、尚、こうして受け継がれている事に心打たれる。大原氏が亡くなって10年以上も経った事を想いながら、これだけ佳い曲を作った氏の人生はその日、燃え尽きはしても、音魂はこうして残るのだと実感した。


 船戸博史さんにお会いするのは、かれこれ2年ぶりで、それはベース奏者の松永孝義氏のお通夜の日以来だった。博史さんの演奏する姿に、私はいつも画家デュフィ(Raoul Dufy)が描いた幾つかの絵画を思い浮かべてしまうのだが、デュフィの絵の中の楽器たちのごとく、踊るコントラバス、それが、船戸博史さんの音楽との一体の姿…博史さんとは、いつか共演させていただけたらいいな。

 
 演奏会が始まる頃からの夕立は、終演後、どこへやら。
 そこに雨が、雷があっても、空の上では、星が回っている。
 美味しいカレーとオーガニックビールをカフェ・コンポステラでいただきながら、私は夏休みが始まったばかりの少女のような幸福感に満たされていた。



















 写真は私の著書『YES』を手にしてくださったチューバ奏者の関島岳郎さんと、そしてコントラバス奏者の船戸博史さん、ギタリストの桜井芳樹と共に :*)

 


 Risa Sakurai / 桜井李早