8月14日、夏の甲子園大会: 第四試合 - 山形中央高校vs愛媛小松高校 - をめぐって:



 大人になるという事は避けられない現実だが、甲子園を観ていて、球児たち応援団、ブラスバンドの演奏は、この最も暑い季節に若いエネルギーが精一杯の力を振っている姿をまざまざと思い知らせてくれる。ゴタクは要らない。彼等は野球場で、自分たちの置かれたケースに直面し、自分(たち)を信じ、勇気を持つ事を思い知る。
 ところでここで何故、山形中央高校を特に取り上げて綴っているかといえば、この高校のブラスバンドを指導されているのは私の大学の同級生、かつて共に学び…というととっても真面目な学生だったように聞こえるかもしれないが…実際、真面目な話、昔我らはよく遊びながらも佳き学生だった。指導者の彼はトロンボーン先攻で、氏のダイナミックな性格はその音楽性に反映されていた。元々氏は美しい音を奏する演奏者であったことは言うまでもない。実に私たちはあの頃、良き友人たちであり、お酒を飲み、語り、若さにまかせ、多少のお馬鹿さんぶりを発揮しながら振り返ってみればかなり愉しい学生生活を送っていたかもしれない。
 その同級生が今、素晴らしいブラス指導者として活躍し、若い高校生の人たちに音楽を演奏する歓びを伝えている。8月14日に甲子園で応援する山形中央高校の演奏の音には、氏の音楽性を引き継いだ若い高校生の伸びのある音を、私は堪能した。佐藤先生は、良い仕事をしている。氏は、素敵なマエストロだ。また、金管楽器タンギングの良さを私は感じた。勢い余って、時に、やや演奏が走りがちになるのも、氏のアッチェレな感性を受け継いだかの高校ブラスバンドの魂とさえ感じた。


 そしてその学校は夏の甲子園でファンタスティックな一勝を今日、手にした。私は夕刻、ビールを飲む事も忘れ、試合の行く末を見守っていた。
 それは山形中央が追いつかなければ終わる9回表、素晴らしい逆転劇があった。しかし、愛媛県小松高校の野球も実に行き届いたプレイであり、見事だった。私に興味深かったのは、終始、クールな山形中央の監督さんの表情である。何か、野球の監督というより、フットボール(サッカー)の監督に似た趣があるように個人的にが感じたのは、それは時代の移り変わりだろうか。昔/昔からの監督さんというのは、どっしりとしていながらも、サインや表情に案外、感情を表すものだが、もう少し若い(というのは今、40代から50代に差し掛かる頃のお年の監督さん…)方は、逆に冷静に構えているような気がするのだ。大きな声で、叱咤したりあまりしないが、腕組みをして睨みつけるのとも、違う。戦闘指揮者的というより、選手に寄り添いながらも、ダンディーなのだ。昔の監督さんというのはダンディーというよりむしろ、指揮官的であり、ベンチにこそあれ選手と共に泥まみれな印象があったが、近頃の監督さんは、同じユニフォームこそ身につけていても、グラウンドともスタンドとも離れた別の世界観を持つ司令官となって試合を分析しているような面持ちがする。
 それでも、小松高校の応援から聴こえて来た、懐かしい、「ダーッダ ダッダダッダダ…ダッダダ…ダッダダ……」というフレーズを耳にした時、ああ、この応援ムードは、昔、甲子園を観る、夏の暑い午後の醍醐味だったな、と、感じざるを得ない、長き昭和の記憶を私に呼び起こした事は確かだった。因に、小松高校ブラスバンドの応援には30年前に高校生だったOBが参加していたとのこと。小学生の頃、プールから帰り、午睡を待つような待たないような時間帯に観る、夏の甲子園で聴く、耳慣れたブラスバンドのレパートリーのひとつである。日本が、大らかだった時代の代名詞と言いたいくらいの、「ダーッダ ダッダダッダダ…ダッダダ…ダッダダ……」…それに呼応するように感じるのは、「想えば/憶えば/思えば、遠くへきたものだ…」


 つらつら綴ってまいったが、では大人は何ができるかと言えば、そのような若い人たちや子供たちの素晴らしい未来のために応援するわけだ。
 今、こうしてスポーツで闘う彼等の純粋を、戦場になど運ばせてはならない。
 だって、若き日々とは二度とは戻らないのですもの。
 山形中央、素晴らしかった!




 


 写真はその山形中央高校ブラスバンド指導者の撮影したものを"勝手に"いただいた...sorry...Mr.S... :*)


 そして明日の朝一は、明徳義塾vs奈良智弁
 この試合は、私にとって必見、かな。
 基本的に私は特定の学校を応援して甲子園を観ているわけではないのだが、明徳の試合は、どうも気になって久しい…ゴジラ松井を敬遠して「高校生らしくない野球」とまで言われた馬淵監督に、私はずっと興味があったからかもしれない。あの監督は或る意味、斬新に高校野球に闘うという意味を齎した。だが、もっと近くの記憶としては、1998年の松坂投手の時の横浜高校との試合だろうか。正直、私はあの試合、明徳を応援していたかもしれない…ピッチャーの寺本選手にシンパシーを感じていたからだろう。


 まあ、いずれにせよ、何もかも、古い話になっていくね。


 時代は進む、という現実があり、それが波紋を齎し、ややこしくし、人はその時、それを実感せずとも、流れの中に自らを置かざるをえない。
 だが、それがどうなろうとも、若い人よ、生きろよな!
 そのために、気をつけねばならない事が、今やあなたがたの両親の若かった時代より、増えてしまったかもしれないが、熱烈に惚れられるものがあるなら、あなたの周囲が、あなたを必ず、救うだろう。


 今年の夏に、感謝をこめながら。




 Risa Sakurai / 桜井李早