全ての道はローマへ通ず/或いは『シンベリン』








 シェイクスピアの戯曲に『シンベリン』という作品がある。これは紀元10年頃ブリテン島(グレートブリテン王国の前身)を治めたクノベリン王を物語化したものらしいが、この時代のブリタニアはシーザー率いるローマ人に侵入されその支配下にあった。
 英国へ行けば(英国でなくとも)ローマ人の軌跡はあちこちに今も遺っているが、話はその『シンベリン』であるが、ブリタニアは征服された事を理由にローマへ貢ぎ物を捧げてきたのだが、やがてシンベリン王はそれを断った。何故なら、ブリタニアはすでにローマに援助されずとも十分、国家として独立するだけの力を持ったからだった。
 しかしそれを面白く思わないシーザーはブリタニアに使者を送り、年貢を納めるよう要求した。だが、シンベリン王はその要求をはねつけ、このような事を言った。


「横暴なローマ軍に攻められ、貢ぎ物を要求されるまでは、このブリタニアは自由の国だった。しかし、世界を手中に入れたいシーザーの野望のため、理不尽にもこの国の民は軛をかけられた。それを振り捨てるのは誉れある国民の心を持って値する」


 物語『シンベリン』ではローマ人とブリトン人は一戦を交え、戦は互角となり、和平が批准されたとなっている。
 これは現在のどこかの国とどこかの国、の関係に似ていないだろうか。また、奴隷を確保し、戦のための資金や兵士を募るやり方さえ、古代から変わらないのである。


 歴史は繰り返す、などという言い方、そろそろ終わりにしたい人類だとは思うが、先に例をあげたローマ帝国の支配という事実(実績ともいえる)がその後、長く、遺伝されてきたわけである。


 "全ての道はローマへ通ず" 


 という言葉どおり、それは遺され、ローマ人に支配された西洋の民はその軌跡として現在も在る砦や城壁、石畳の道に囲まれ、そこを歩く事で古代の人々の味わった執念を忘れはしないのだろう。




 李早