11月9日 - 私の壁を私は未だ、壊せない
夕刻、しばらく時間がとまっていた。
眠っていたのではない、楽器を弾いていただけだ。
だが、眠りの中を歩いているような拍。
歩みにおいて、邪なものが入り込むと、途端に躓く。
躓くと、私は楽器に跪き、再び眠りの中で立ち上がり、歩く。
私はそれが、私の果てしない歪な行いと知っている。
日本とは時差はあるが日付として1989年の11月9日、立ちふさがっていたベルリンの壁は開かれた。
私がドイツを訪れたのは911の翌年の事だった。
ベルリンにて、旧東側の街で踏みしめた道、また立ち寄った施設に展示されていたのは古い小さな車、その狭いトランクの中に身体を折り曲げるように人間が隠れ東から西へと密入した痕跡はそれが夏であっても血が凍る思いだっただろう。
私はベルリンでツォーの駅近くのホテルに滞在したのだが、ここからは1943年ベルリン大空襲で崩壊したカイザー・ヴィルヘルム記念教会が望めた。
夜になるとこの歪な形になった教会はライトアップされ、私の目では、緑色に輝くように見えたものだった。
この光景は、日本人であれば、広島の原爆ドームを連想するのではないかと思う。
しかし、私の壁を私は未だ、壊せないまま、生きている。
李早