"さむらい"という酒








 先日、"さむらい"というアルコール46度の琥珀色の日本酒を飲んだ。越後のお酒のようだが、それはシェリーのような口当たりで、グラス一杯をまず大胆に三口そこいらで飲み干してみるとさあ、この後どうしようかな、という気にさせる酒であった。その晩は、おかげで生温い夜を気にせず眠ることができた。


 ところで先程、その中に水をいれると美味しい水ができるといわれていただき長く使ってきた壷を、庭先で割った漢があった。その漢、普段は佳いおとこなのだが、時々ムキになる。それでは何故、壷を割っていたかというと、漢は連合いに「あなたはいつもその壷の水ばかり使う。美味しい水は他の容器にもできているのだから、他の水も使い回してください」と言われたことに腹をたて、「この壷がなければそんな問題は起こらない」と言いながら、暗い夜の中、静謐を破るようにしてその美味しい水ができる壷を割ってみせた。そればかりか、漢は壷の破片で自分の足に小さな傷までおったらしい。連合いは漢が付けた血液の染みをセスキでせっせと擦り洗った。ここに46度の日本酒があれば、連合いはそれをサッと口に含み、漢の傷に吐きかけることもできただろう。壷を割ったら漢は眠ってしまった。あと少しすれば目覚めるだろうが、その頃、連合いは眠ってしまっているだろう。


 侍、か。
 それを稼業とするのは、おとこでもおんなでもよいわね。
 地獄へ行く覚悟があれば。


 ええ、この"さむらい"という酒、とても良い香りがした。
 日本酒を飲むと翌朝に残ることがあるわたしであるが、この酒に限ってはそのようなことがなかった。
 わたしがこの酒について、気をつけながら嗜んでいたのかもしれないが、侍なら、隙があってはならないだろうしな。


 変わった香りの麦茶ですよ、と幼稚な悪戯で誰かを騙したくなるような日本酒、美味しい水ができるという茶色い壷に入れていみたら、果たして、どんな味になっていたことだろう。




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