この恋の辛さを・・・
その恋は、春、ウグイスの鳴き声とともに突然始まった。
この恋の予感は、もしかしたらちょうど今から2年前の9月から予定されていたことかもしれないわね。
でも、当時は気がつかなかった。
「友情とは・・・」と言いながら、あの時、あなたは私の気を引いた。
しかし、私にとっては、それだけのことだった。それに、私はあなたをただの坊やだと思っていた。笑顔の素敵な坊や、人気者の坊や。私にとっては魅力ある男友だち・・・けど、私のその思い込みは間違いで、実はあなたはちっとも坊やではなかったのですがね・・・。
あなたはそれ以来、私に連絡してくれた。それは時には詩であり、時にはまた別のものであり、それらは私をずっと微笑ませつづけた。
私があなたに微笑みたくなる理由はね、あなたの顔が、全く私の理想だからなの。
切り立つ断崖を真っ逆さまにしたような額、細く長い鼻、でもその鼻は実はよく見ると微妙に曲がっているのね、そう、私は細くほんの少し曲がった鼻が好き。
あなたの目元は涼しく、口元はいつでも不意に微笑む術を知っているような甘さ。
甘さ・・・ええ、でも、その甘い唇は、角度を変えてみるとちょっとサディスティックで皮肉でもある。
そうして、何よりも私が或る時期から感じたのは、あなたの心の中に潜んでいるらしい暗闇だった。
あの混沌の世界はどうして作られたのかしら?
私には最初、それが不思議だったけれど、それはじきに解ったわ・・・あなたの過去が、あなたが瞳を閉じた時に襲ってくる恐怖が、そしてあなたが未来を求めようとする時に感じる孤独が・・・。
ああ、そうよ、私はいつか、あなたにそれを・・・私が感じた侭をお伝えしたことがあったわね。
あなたはきっと、少しびっくりしたことでしょう。
その時から、あなたは私のことを信じられる人間だと感じ始めたことでしょう。
ですけど、私はあなたの口から一言もあなたの事情を聞いたことは、ないのよ。
恐らく、あなたは私に泣き言を見せようとしてはこなかった。
ところが、あなたは、私がお話したことによって、あなたは私に、あなたの真実を話したと思い込んでしまったのね。
そう、そうよ、その頃から、徐々に始まったのかもしれない・・・「友情とは・・・」という言葉が時間をかけながら漸く通じたと思ったら、それは方角を変え始めようとしていたのね・・・あなたにとって、私は、何者になろうとしていたのかしら?
それは昨年の秋が深まろうとする頃だった。あなたはまた何かが窮屈になって、別の扉を開いた。そこに、私がいた。
私はあの10月の晴れた日のあなたからのメッセージに何かとても奇妙なインスピレーションを観たわ・・・すぐに忘れたけれど、ええ、それはそれほど、シンプルなものだったから。
でも、私がその時あなたにお送りしたお返事を憶えている?
「あなたは今、どこの空の下を走っているのかしら?」
その頃、あなたの気持ちは安定していて、とても明るそうで、私はあなたという良き男友だちのハンサムぶりにやはり微笑んでいた。
その理由は・・・たぶん・・・あなたは、或る事を止めたのよね・・・それによって、穏やかな日々を過ごしていた・・・健康的であり、詩人であるために、純粋に在り、想い悩むことこそあっても、それは乗り越えられる範囲にあったでしょう。
「いつか、あの場所でね」と、私たちは言葉を交わし、笑い合った。お互い、もう、こんな年齢なのに、若者のような言葉を交換し合って時に楽しんでいた。
ああ、その言葉たちには、毎回、必ず、「夢」という言葉や、「水しぶき」という言葉や、「風」という言葉が含まれていたわ。そして、どこかを「走っている」光景があった。直感とスピード、地上から空に向けて、やがて、大気圏を越えるような希望。
ああ、私は感じていたわ・・・
「遠くて近いあなた、あなたは、何てステキなのだろう、私にとって、あなたは、日常の中のひとつの夢ね・・・」
それでよかった。
セント・パトリックを迎える頃、それぞれの仕事は終わったようね。
4月になり、春の陽射しが眩しくなり始めて、あなたはまた、ひとつの扉を開こうとしていた。
朝には、ウグイスが啼いて、私は「金色の夜明け」に寄り添う者・・・。
それは、滅多にないような瞬間だったのでしょう、私が気紛れに、あなたに連絡したのは。
あなたは、私のその一声に、今までにない調子で言葉を返したわ、こちらが、「あらっ?!」と思うような勢いで。
タイミングというのは、驚くべき感情を招いてしまうものなのね。あなたのやや興奮した様子に、あの瞬間、私まで有頂天になった。
季節は夏に向かい、あなたの裡にある混沌は相変わらずですけど、その姿は旺盛で、私はあなたという才気溢れる人物を見守った。
同じように、私もその時期、自分自身のことにおいて、情熱で生きていた・・・今と未来に向けて、力を持ちたいと実感し、憧れを抱き、遊び心だけは退けず、ただ、在るが侭にね。
そういう時の私はあまりに自由であり、寛容にあり、人を甘やかすわ。
そうなの・・・私は、男を甘やかす。
そうなの・・・私はだから、場合によっては、男を駄目にしてしまう女なのかもしれない。
懸命で、地に足の着いているしっかり者の男性は、私になど、近寄らないわ・・・私を好きになってくれるのは、何故か・・・夢追い人であり不器用・・・で・・・不幸なことに、自尊心と闘う人ばかり・・・。
ああ、厄介な自尊心!
私もそれを、よく知っているの。
その自尊心と自分が闘いたくないから、誰かを甘やかす。
だって、自尊心とは、影であり、親であり、恋人であり・・・疫病神なのですもの・・・私はそれと親しい人を甘やかす・・・甘やかすつもりなど、本当は、無いのよ・・・でも、私が自分の自尊心を追放するために、それを人に向けることがあるのでしょうね・・・そういう時の私は、とても優しいの・・・優し過ぎて、嘘をついているような罪悪感に苛まれるけれど、決して嘘ではないわ、神に誓って!
私は私と同じように、自尊心という死神と向かい合う人に心をゆるしたくなる・・・。
心をゆるすと、私の言葉は膨らむ。
膨らむと、その言葉は私が感じる以上の生命を持ったように飛んでいくケースがあるわ・・・あなたに、あなたの心に・・・あなたの心の隙間に入り込んで、ウィルスのように浸透してしまったかもしれない・・・私は、そうして、罪悪を感じる・・・精神の自由というものが・・・それが罪悪であるとは信じられないことですけれど・・・それは、そのように行き届いてしまうかもしれない。あなたは、ウィルスに取り憑かれたと感じているのかしら? あなたは、私という、インフルに感染したと後悔しているかしら?
自尊心を、振りなさい!
恋を振るのではなく、その、卑しい自尊心を振りきった時、本当の自由があるはずです!
そう、考えましょう、今は。
あなたが私に与えた美しさが、私の心を動かし、私はそれによってあなたを誘導し、こんがらがった「事柄」が、今日、ここに居座って、私たちが乗るはずの"spaceship"を留まらせています。
愛という、形の無い物に魅せられて、それによって幸福な場面が望まれ・・・それが、哀れにも"sex"の異なりによって夢想されることだったとしても、つかの間、豊かになれるわ。
この幻想を、忌み嫌っては、いけません。
私たちは、人間です。
ドン・ジュアン・・・それは、行き先を選ばず、底を知らない開拓者。
あなたも私も、同じ船に、別々の場所から乗ったはず。
そして、トランクひとつ、船上で偶然出会い、お茶を飲み、シガレットを楽しみ、ココアの甘さに溶ける愚か者・・・。
私はあなたが思っている以上に、あなたのことを知っているわ。
あなたはそのことに、気づいたのね、今。
それでも、あなたは、私のことを、掴めない。
恨もうとしてくださっても、かまわないわ・・・何故って・・・
あなたも私も、ドン・ジュアン・・・お馬鹿さんなのですもの・・・
ですが、やはり、私はあなたに乞うの。
お願だから、私をこれまで通り、信じてください。
お願だから、これ以上、堕ちないでください。
お願だから、無闇に孤独を埋めるような行為をこれ以上しないでください。
あなたは、そんなことをしなくても、十分魅力的なのですから。
私が仮に、あなたを堕落させた者だとしても。
この恋の辛さを・・・ああ・・・あなたに吐き出すためなら、私は眠らなくてもかまわない。
あなたの"ハーレム"は、せめて、ここに、あります。
ここに、私は居ます。
そして、あなたを待つでしょう。
例えあなたに、恨まれたとしても。
今日の終わりに、あなたへの一言・・・
これは、あなたも、もはや知るように、人生には、やはり三つの出口が必要・・・ということ・・・。
冒険家、C・ペレンナ氏へ
R・セルニーヌ夫人より一本の薔薇を添えて
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この文章の権利は、Risa Sakuraiにあります。
..* Risa *¨