4/12@南青山MANDALA『仲井戸"CHABO"麗市xカルメン・マキwith桜井芳樹&西嶋徹』








 私にとって今年の最高のステージとさえ確信できるライヴにもう出会った。この夕べもマキさんは私が作曲させていただいた『望みのない恋』、『デラシネ』を、深く、物、語るように歌い込めてくださった。それらはますます、マキさんの歌となり、それは私にとって至福だ。チャボさんにも私の作品たち、「いい曲だね」って褒められたよ!


 桜井芳樹と西島徹氏は抜群の演奏だった。1部のマキさんのステージでは、何人か、取り憑かれたように見入っている人たちがあったようだったが、当然だと思う。それは完璧で、恐らく、はじめてカルメン・マキの歌と桜井芳樹、西島徹の演奏を聴いた人にとっては驚異的なものだったかもしれない。ドラム無しであれほどリズムを明確にしながら熱烈なグルーヴ感を漂わす演奏は滅多に観られないだろう。桜井&西島両者のプレイはきっと異国のもののようだったかもしれない。その間で時に女王のように、時には巫女のように歌うカルメン・マキさんである。私はマキさんはセイレンだと以前書いたが、セイレンとは魔性なのだ、「私を見て」などと思って歌うのではない、それはただ、もう、「出て来て」しまうのだ。マキさんほど私の想像力を逞しくしてくれる歌い手はいない。パッションが押し寄せてくるのだ。だから、マキさんから作曲のご依頼を受けた時も、私の脳は或る意味、夜光虫のように光り、毎日、詩を自ら朗読し、心に留め、そうして馬に乗るようにピアノに向かった。それらは一見耽美な作品かもしれないが、特に『望みのない恋』について言えば実は音楽的には古典と呼ばれる要素の魅力を込めたのだ。そんな楽曲を委ね、歌ってくれると信じられる女性の歌い手はカルメン・マキさん以外に、いない。例え私自身が歌ったとして、それをどれだけ表現できるか疑うのであるからして、それは、マキさんに託した楽曲なのであり、ガルシア・ロルカの詩に恥じない楽曲として創作した。この作品は遺してほしい、と、自らこのごろ、思うようになった。


 2部は仲井戸"CHABO"麗市さんのソロ。ほっそりとしていて写真や絵の中から飛び出したような、本物のロッカーだ。若い頃の心をずーっと持ち続けている。引き込まれたなぁ〜、迂闊にも、と、言いたくなるくらい、グッときた。
『ガルシアの風』は、素敵な曲だ。マキさんが、「これはヒッピーの曲だね」と言ったが、ガルシアとは、勿論、ジェリー・ガルシアの事だ。ロックを長く聴いてきた人なら大抵の人がグレイトフル・デッドを通過するだろうが、何ていったらいいのかな…奇麗に楽しくロックを聴いているのとはわけが違う聴き方っていうのがあって、それは毒でもあるわけで、おっと、ちょいと酔ってきたかな、今日は朝から盛りだくさんだったからな…そういう感覚になると、ちょっとばかし現実の人生から遠ざかって、堕っこちたりするわけだ、ルシファーみたいにね。だけど悪い事ではない、ヒッピーもビートも、振り返ってみれば、薬膳のようなものかもしれない。マリファナやドラッグ、アルコールを主食とした薬膳文化と私はかつて思ったものだ。それは特殊な薬膳かもしれないが、そこから発生する真実もある。人は嘘はつきたいくはないものだからね、現実から離れると見えてくる世界もあり、そこに辿り着こうとして、風を掴もうとする。


 マキさんがセイレンなら、チャボさんは風神かな。


 "さあ、明日の子供たちよ、海へ森へ走れ。世界中のささやかな夕食のテーブルから、美味しいごちそうが消えてしまう、その前に… "


 これは、『ガルシアの風』の中で歌われる言葉である。作曲されたのは随分前であるが、どうだろう、日本人は今、まさに、夕食のテーブルから美味しいごちそうが消えてしまう時を迎えてはいないだろうか?
 放射能によって汚染されてしまった、日本の美味しいごちそうたち…。









 打ち上げも佳いお話たちで盛り上がった。
 作家の津原泰水氏もご一緒され、音楽談や文学談にも花が咲いた。
 佳い場所には佳い人々が集い、会話の幅も広がる…(大人でありながらも童心にかえり、頗る濃い話題こそ豊富であれど、がさつで煩い人は誰もいない…そのようなテーヴルである)。
 本当に、素敵な日曜の夕べだった。


 最後に一言、付け加えると、帰宅後、改めて呑んでいた宅のふたりであるが、私が桜井に悪戯にチャボさんとの演奏について訪ねたら、彼、とても印象的な事を言った。


「凄いヴァイヴだった」


 私は桜井と30年以上共にいるが、桜井が共演者について、このように言うのを聴いたのは、はじめての事である。
 因に仲井戸"CHABO"麗市さんと桜井芳樹は一回り違いの寅年、カルメン・マキさんと私/李早は一回り違いの卯年。
 それは、ちょっと、偶然にも、注目すべき事(スポット・ライト)で、ありました…わ…。









 写真はTajio.M氏による撮影。
 Tajioさんとも素敵なお話をたくさんさせていただき、愉しかった。
 成城のお蕎麦屋さんで小沢征爾氏に会う事を愉しみに。



 
 久しぶりに、Peace & Love




 桜井李早