文と香
手紙を書く必要がある。
それはEメールではなく、便箋と封筒で相手方の住所に切手を貼って出す。
どのような便箋を選ぶか、そのようなことも考えながら、文章もあれこれ考えるのだが、文面は、この度のような場合、正直で飾りの無いものがよい。特にわたしのように、つい、気持ちを伝えようと余計なことまで言うような者は、時には控えめに、素直に、多くを語らない文章を書く必要があるだろう。これは、そういう手紙なのだ。
そうして、便箋や封筒というものは、送り主の心も反映するだろう。選ぶということは、案外、手間もかかるが、それも人の心を差し出すようで、奥深いものだと、手紙を書く、手紙を出す、ということが今日のようにEメールが習慣とされた時代にあって、素敵なことと感じた。そう、文字もペンで書かれるわたしの様子を映し出すのだ。
ところで、先日は懐かしい香りに出会った。
それは小学生の頃、とても好きだった香りのする消しゴムの匂いなのだ。
子供時代というものは、学用品を選ぶ楽しみがあって、気に入ったものを見つけて購入すると、何となく勉強することに胸が踊ることがある。たまたま変えてみたコンディショナーがとてもわたしの髪に合っていて、ふとその香りが、昔懐かしい、愛用した消しゴムから漂ってくる匂いによく似ていた。子供心に、この消しゴムはどこか上品な外国の香水のような匂いがする、と思い、机に向かいながら、消しゴムを鼻に寄せては心地よくなっていたものだった。
紙やペン、消しゴム、そして髪を洗いながら、文と香。
桜井李早