lete/下北沢的な夜か

 2009年6月9日。
 まだ些か切れ味の悪い躯を車に乗せてもらいながら、下北沢へ。桜井芳樹&西脇一弘氏のライヴ、leteにて。
 そしてこの日は、我が夫婦の結婚記念日でもある。

 ライヴは本当にステキだった・・・というか、私はリハーサルから拝見させていただいていたのだが、実に、このリハでの演奏が魅力的であった。
 実際、本番の方がリハよりも短かったくらいで、とはいっても、私は二度愉しませていただいたようなもの、非常に得難い夕べ・・・でも、いいわよね、結婚記念日なのですもの・・・。
 一部、二部とも、主に西脇氏の楽曲を中心としたこのライヴであるが、氏の作品にチェリーがエレキギターで旋律を乗せていくという嗜好。これが最高だった! おふたりの相性も自然に溶け合うような印象であり、西脇さんの美しい楽曲に乗るチェリーのギターは、ドラマティックだった。身内のことゆえ、あまり褒めるのもどうかと思うが、まあ、結婚記念日だからな、いいだろう?

 一曲目の「Dm(ディー・マイナー)」は力が抜けるほどの美曲である。ここであえて、解りやすくイメージをお伝えするなら、あのフランス映画『男と女』のひとつのシーンを連想したくなるような・・・そうね、例えば、あのシーン・・・男と女がふたりで歩きながら、犬を連れた老人とすれ違うシーンがあるわ、そこで男は女にジャコメッティの話題など振るのだけれど・・・あのシーンに流れていたら・・・と、曇った東京は下北沢の空と曇ったフランスの光景を交差させたくなる・・・。

 MCもほとんど無く、よって、音楽のもたらしてくれる風景に身も心も遊べる状況・・・21世紀の大人は、このようにあっても、いいな・・・。

 このライヴ、見逃された方は、まことに残念かもしれないが、このふたり、今後も一緒に演奏することもあるでしょう。

 で、余談なのだが、リハーサルのあまりの素晴しさに、思わず、「これ、そのまま録音して発表したらいいのに・・・」と言葉にしてしまった私だったのだが、そこで、町野さんも、「そうだよねぇ」という乗りになり・・・はてさて、このデュオ、今後、どうなりますことか、楽しみなのでございます!(ですが、私の予言は、案外的中することが多いのですわ・微笑)。

 知恵さんは少し遅れてleteにお見えになられたけど、お疲れなのだろうな・・・ご無理なさらないでね。でも、そんな知恵さんは勿論、中村まりさん、矢川君たちなど、終演後は残った人たちでおしゃべりを少々。
 中でも、面白いのは、pocopenさん・・・とても優しく控え目なお話の仕方をなさる彼女なのだけれど、うふっ、この日、Risaは、理解いたしましてございます・・・彼女のあの詩世界に潜む謎の奥底を・・・。pocopenさんは私の書いた『YES』の中でも、特にRisaの少女時代の物語など気に入ってくださっているとうかがってはいたけれど、この晩はまた違う話題が飛び交ったのである。
「クククッ・・・『女』」と、pocopenさん。
「あ、『女』ね」と、私。
 彼女が微笑されているのは、「時空と距離、そして球」とタイトルされた『YES』の中の作品のことなのだが、宇宙のお話といっても、いいかしら?
「あれね、事実なの」と、私も昨夜、一緒に微笑んだ。お酒を呑みながらひとつの部屋で深夜を過ごす男と女の会話である。微妙にふたりはズレながらも遺伝子の絵図のようにゴタゴタと絡むのである。

 ・・・私の書くものって、一見、実話のように思えるものが想像で、想像と信じたくなるようなものが実際の出来事だったりするの・・・と、つい、正直者の私はpocopenさんに告白してしまう(私という流れ者を告白に導く彼女も流石である)。
 しかし、或る意味、事実が創作のように見え、創作が事実のように読めるということは、私の狙いでもあったので、これは嬉しいことでもある。

 正直ついでに更にもうひとつ白状してしまった・・・「パリの男と金曜の女」というのも、あれも実際の話で、私とパリに暮らす或るシンガーソングライターの男性とが英語で文通(古い言い方? pen-pal・・・もっと古い?)している模様の一部分を日本語にして、ほぼそのまま綴ったもの・・・。
 ・・・読んでくださった方はご存知かと思うが、ちょっと、小粋に過ぎて進んだ会話である。
 が、これは詩人ならば遣れる言葉の遊び、ゲーム、愉しみである。
 彼と彼女は日常の隙間をほんの少し縫って、思い思いの話題を振る。
 振って、その場をお互い去る。
 去って後、再び、振り合う、というわけ。
「パリ・・・」のお話を、何故そこまで私が本に著したかったかと言えば、フランスに暮らす彼が言ったこんな科白が理由なのだわ・・・

「僕は舗道の銀のクローンだ」

 詩人とは、相手が男でも女でも、動物であり植物であり、空であり宇宙であっても、それらと平等に触れ合うもの・・・全て、凡て、平等・・・これは、神様から観た平等とは、もしかしたら、多少の異なりがある平等かもしれなくてね・・・。

 確かに、詩人であれば、どんなものとも対話できる。
 何かと、誰かと、親密になることは詩人の命よ。

 でもね、そんな詩人でさえ、成れないものがあるわ。

 それは、神。



 ここで漸くダイアリーは下北沢に戻れるわ。
 夜遅く、leteにいらしたのは、エマーソン北村氏。氏はsakanaの'90~'91年にかけてのかつての作品が今日、新たな形でリリースされたアルバムにご協力されたのです。北村君(つい、北村君と呼ばせていただいてしまう私である)とも、我らはもはや20年からのお知り合いである(氏はこの晩、『YES』を購入してくださった・・・many thanks!)。
 sakanaが'90年前後に発表したアルバムのレーベルは"nutmeg"・・・懐かしいね、ザビ氏。小岩、代々木と、お世話になった人も多く・・・sakanaのおふたりとは当時お会いしていなかったかもしれないのだけれど、あの頃から身近にいらしたのね・・・で、今。

 思えば、下北沢という場所は、ライヴを、というより、渋谷、新宿、六本木あたりでライヴを終えて、一度近所で打ち上げた後、二次会で飲み遊ぶ街だった。
 おもちゃ箱をひっくり返したような場所というのが、私の昔からの印象だが、今では、ちゃんと真夜中過ぎに下北沢を後にするような大人になった・・・と、いう、こと、か?

 しかし、Risaの大好きな森茉莉さんは、下北沢にずっと暮らしていた。

 そんな私も、これからは時に・・・年に時々は、どこかで、歌も歌って暮らそうか、などと、改めて思った。

 それというのも、「歌え」とRisaに言うpocopenさんの優しい言葉が効いた・・・彼女は強い女性だ、誰かをスッと、それこそ、思ったままに励ますことができる人間とは、自分に常に正直であり、つまらない闘争を嫌い、平和を愛する人間である、彼女、pocopen嬢は、想像以上に女性的な人である。彼女は、ご自身をよく知る人であり、聖も俗も解釈する感性を持ち・・・。
 だから私は彼女を信じられるのだと、この晩、感じた。
 そう、こんな私も、これでも、そのように生きようとしている者である、同じ匂いを、感じるはずだろう・・・これでは・・・(これでは、とは、どんな事か、それは、想像にお任せね)。



 下北沢を後にしたチェリーと私は地元MARUに向かう。
 ハンドルを握るは私。
 チェリーはまりさんとの会話でほろ酔い、いつものごとく、うふっ。
 
 MARUに到着したのは午前0時半を過ぎていた。ここでもこの夜、ステキなイベントが行われていた。
 私の『YES』イベントに多大な協力をしてくださった岩崎氏がplayされるライヴであった。生憎、日が重なっていたため演奏は拝見出来なかった。
 あがた森魚さんも、このライヴに参加なさったのであるが、ひと足違いで行き違い。
 退院なさったMARUのオーナーの三島さんも本当に入院されていたのかしら・・・と思いたくなるくらい、今はお元気なお姿で迎えてくださった・・・よかった!


 そんな6-9/Rockの日。


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 『YES』桜井李早:著/MARU書房

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