フランスにて / ムランとシャトー



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Colin Pearson/market




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Colin/cafe




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Chateau






 10月2日、熱がほとんど下がったようなので、用事も含め、お隣の街、ムランまで出かけた。
 ここのところ、夜に雨が降り、明け方は曇っていて、午後になると晴れ間がうかがえる日が多いが、気候はそれほど寒すぎることもない。雨上がりの今朝など、目で見る色よりも肌て感じる空気は暖かい。
 ムランまでは一時間くらいだろうか? いや、もっと時間がかかるのか、ともかく私は近頃あまり時計を見ない。

 用事を済ませてカフェでサーモンを挟んだバゲットのサンドウィッチを丈夫な歯で齧りながらエスプレッソを飲んだ。パラッと雨も落ちて来たが、すぐに止み、その後マーケットを覗いたりブティックに入ってみたり、教会に入ったり、楽器屋さんに寄ったり、そしてスーパーで少し食材その他を購入しメルンを後にした。
 その頃は、もう、コートを羽織っているのが暑いくらいだったが、フォンテーヌブローに向かう道を走りながら車内から見る木々の葉の色は少しずつ変化していて秋らしいといえば秋らしいが、それ以上に目を惹くのは、美しい家々の様子だ。石造りのがっちりした建物に蔦が絡まっている光景は随分見て来たが、フランスは今まで私が訪れたヨーロッパのどの国よりもそれぞれの個人宅が醸し出す姿が独特である。これは、統一されていないためだと思うが、例えば、ザルツブルグなど、確かに美しい建物があったが、色や形のバランスをとることによる整頓された美なのだが、ここフランスは、その統一という気配が無い。やはり個人が強いのだろう。こういう国家の舵取りをすることは難しいだろうと感じた。
 フランスにいてフランスで暮らす人たちと一緒にいるので、自ずと話題がフランスの話になることがあるわけで、コリンは毎日必ず政治的な話をする。ヨーロッパの国家間の関係、アメリカとのこと、また、アフガニスタンについて、など、日本のニュースではほぼ話題にならない事情なども語ってくれる。そうして思うのは、やはり西洋の外交はお金の力は勿論なのだが、表面上には浮かべない、深い奥底の力と力の取引に似た賭けが繰り返され、それを比べ合ってきた歴史の長さを思い知らされるような気がする。
 窓の外は時に青木ヶ原を走っているような景色になるが、空はここの方が広く感じる。何故なら、このフランスという国は、平なのである。


 車はフォンテーヌブローへ戻ってきたが、コリンはまっすぐに帰らず、別の道に入った。
 そして彼が指差したのは、緑の向こう側に白くひっそり建っている宮殿だった。
「あれは昔はシャトーだったが、今は学校になっている」
 私たちの乗った車は宮殿の門をくぐり、駐車スペースに停車した。
「少し歩こう」そう言って、彼は建物のこと、学校のことなどを話してくれた。
 これは、離宮と呼ぶ方がよい建物だろう。ウィーンやサン・スーシ宮殿でも見る事ができる"水の美"を象徴し、またそれを自由にできる栄光者の権力の徴と考えたくなる庭園の美に、庭園の静かな美しさにうっとりした。が、それは静けさこそあっても、日本にない美にうっとりしているのではなく、その光景が、あまりに今の自分に当然のことのように存在していることにうっとりしていたのだろう。




 何だかもうすっかり病気が回復したような気がした一日だった。
 静かな穏やかな一日だった。

 




 10月2日 フォンテーヌブローより